ナッティーのブログ@米国公共政策大学院

米国公共政策大学院の留学の様子などを記録しています。

UCSD公共政策大学院の授業④Corporate NonMarket Strategies(企業の非市場戦略)

UCSD公共政策大学院で1年秋学期に履修した講義Corporate NonMarket Strategiesについてまとめました。

<講義名>

Corporate NonMarket Strategies(企業の非市場戦略)

<講師>

Bill Bold講師

  • 保険会社Palomar Speciality Insurance社のChief Strategy Officer。
  • 1997年から2017年まで、通信会社Qualcomの政府渉外部門の副代表として、同社の政策課題の管理運営、各レベルの対政府交渉、CSR業務に従事。
  • 講義中は、講堂の座席の真ん中くらいまで行ったり来たりしながら話す。時には中央の教卓に座りながら講義することも。

<内容>

企業の非市場戦略

  • 専門領域American and Comparative Business Regulationの選択必修科目。
  • 民間企業の政府渉外、規制対応、メディア対策、CSRといった非市場戦略について、事例分析の講義。
  • 「論点は何か(Issue)」「プレイヤーは誰か(Actor)」「プレイヤーの関心は何か(Interest)」「プレイヤーが交渉する場所はどこか(Arena)」「プレイヤーが必要な情報は何か(Information)」「プレイヤーがすでに有している資産は何か(Asset)」という観点から非市場戦略を分析するIA3分析を、州レベル・連邦レベルのオンラインスポーツ賭博規制、オンラインプラットフォームの反トラスト規制であるAmerican Innovation and Choice Act (AICO) 、各国の電気通信事業者に対する規制について実施。
  • 企業の非市場参入について、企業の各部門による戦略のメリットとデメリット、汚職への対応について事例解説。
  • 企業の世論対応について、GoogleのエンジニアJames Damoreの公開書状に対する同社の対応、NBAが香港の民主化運動を支持した際に中国政府から謝罪を求められた時の対応、フロリダ州知事Ron Desantのジェンダー言論規制に対するDisneyの反論により、DesantがDisneyへの減税措置を廃止した事例を分析。
  • 国際NGOなどの活動家の行動原理と、彼らを企業経営に活用する方法について議論。
  • 毎週Office HourとしてZoom Meetingを開催。

<評価>

課題40%(レポート3本)、授業参加10%、最終課題50%

  • 1本目のレポート課題は、IA3分析を用いて、2023年米国議会における娯楽用大麻の合法化法案の通過可能性を5ページ以内で論じるもの。主に米国議会と政府をArenaとして設定し、各アクターの利害関係と関心を分析する。両院司法委員会と本会議の主要アクターの主張や各議員選出州の大麻合法化の状況を踏まえ、法案が委員会や本会議を通過するか分析することが求められた。
  • 2本目のレポート課題は、インドネシアへの投資に対する政治的リスクを分析するもの。インドネシアの政治体制、企業活動に対する政治的制約、汚職の可能性、これらのリスクを回避する組織体制、報告体制等について、5ページ以内で提案する。インドネシアでは21世紀に大規模な地方分権化が進んだ。しかし、同時に許認可権も地方に移管されたことで、地方レベルの汚職が深刻化し、地域ごとの多様な政治的文化的背景により、開発独裁体制の頃よりも多国籍企業が市場参入する際の規制対応が困難になっている。このことを踏まえたインドネシア中央政府と地方政府への対応と、現地法人の組織体制について論じた。
  • 3本目のレポート課題は、活動家の関与と危機管理に関するもの。多国籍企業が工場を置く中国とベトナムで違法労働が発覚し、NGOに対外公表されてしまった際のメディア・政府対応、今後の企業活動への活動家の巻き込み方、今後の事案防止のためのサプライチェーンの改善案を、2000語以内で提案する。
  • 最終課題は、バイオ創薬ベンチャー企業の広報・政府渉外部門の立ち上げにあたり、組織体制と今後5年間の対外戦略を6ページ以上のメモで提案するもの。開発中の製品ラインナップは結核治療薬(主要市場は途上国)と乾癬治療薬(主要市場は先進国)で、規制当局対応、広告以外の企業イメージの向上方法、成長戦略を盛り込むことが求められる。
  • 最終成績はA-(19.0-41.6%)。 A+はなし、Aは19.0%。

<感想>

1年秋学期の選択科目は、当初は地方財政定量分析に関する講義を受講しようとしていました。しかし、第1週にCovid-19に感染し、学習のペースを掴むことができなかったため、必修科目に時間を割くべく、負担が軽く、知人が多く受講している科目を選びました。消極的に選択した科目でしたが、これまで立法・行政・司法といった公共部門の視点から学習していた私にとって、企業が市場外のアクターとの交渉によって政府規制に対処し、場合によっては政策を変更、形成する過程を詳細に学ぶことはとても刺激的でした。最高の評価は取れなかったものの、4本のレポート作成によって、企業と政府の関係性を分析する良いトレーニングを積むことができました。州、連邦、アジア各国の事例がバランスよく取り上げられていたので、企業行動について学びたい人にはおすすめの講座です。